さようなら神奈川県立近代美術館鎌倉

 1月31日に神奈川県立近代美術館鎌倉で最後の展覧会が終わり、もう今までのようにそこで絵や彫刻を見る事は出来なくなった。坂倉準三建築研究所が設計したこの美術館が開館したのは終戦からまだ間が無い1951年で、僕が生まれたのはその大分後だけれど、記憶の中には色々と懐かしい思い出が残っている。建築を志すようになって多少知識が増え新しい見方をするようになっても、その魅力が色褪せる事は無く、最も好きな建物であり続けている。

 改めて考えてみると、この建物は二つの点で特に素晴らしいと思う。

 一つは、周囲の環境に妥協せず新しい魅力を創り出している事。敷地は鎌倉の中心である鶴岡八幡宮の境内に位置し、もし今美術館を計画するなら、周囲の環境に配慮して傾斜屋根や落ち着いた色彩などを求められる事になり、このように池に張り出した白い箱のような建物を設計すれば、強い反対運動に遭ってしまうと思う。しかしこの建物が実際に周囲の環境を損なっているとは感じられず、逆に新しい魅力を引き出していて、単純に形や色を周囲に合わせるべきだと言う考えが浅く狭いものである事を教えてくれている。

 もう一つは、時代に即した設計が時代を超えた価値を生み出している事。建物が出来た時代の状況を反映して、外装や内装には高価な材料や特別な手仕事を要求されるものは使われていないし、建物全体は構造の鉄骨量を減らす為に軽量化が図られているのだけれど、優れた設計によって貧しさや弱さは感じられず、清潔さと気品を備えた一種抽象的な美しさが得られている。時を経て多少の物理的な劣化や改変が見られるようになっても、その本質的な価値は失われていない。

 多くの人達の努力が実り、この建物は県立近代美術館の役割を終えた後も壊されずに、鶴岡八幡宮へ引き継がれる事になった。素晴らしい建物に相応しい、素晴らしい使われ方をして欲しいものだと思う。

(栗原正明)

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