柔らかな弧感覚

このコラムを書いているのは、2021年の3月の下旬。新型コロナの感染症が世界を席巻しはじめてからほぼ一年がたち、わたしの住むまちでは、2回目の緊急事態宣言が解除されたところです。一年を通して、世界中でstay at homeが、合言葉となり、いままでになく、家に籠ることが善とされる世界となりました。

社会が決めた時計が知らせる時間にあわせて行動することがあたりまえの日常から、家のなかで多くの時間を過ごすなかで、いつ起きて、いつごはんを食べて、いつ仕事をして、いつ寝るのか、ある意味解放された時間で過ごすようになりました。外からどんどんとやってくる時間や思考と自分の中から感じる時間や思考とのあいだにもディスタンスが生じて、自分の内面がどこか調律され、なにかにつつまれ柔らかく守られているような感覚をもちました。人にあえないのは寂しくもありますが、ひさしぶりに感じるこのような孤の感覚を、この機会に積極的に味わおうと思いました。

わたしは、机の前に広がる空の移り変わりや、窓の外の樹木の成長を眺めるのが日課となり、身体の声をきいて食事をつくるようになりました。自然がつくり、場所がうつし、身体が感じる時間の中で、そのような柔らかな孤感覚が醸成され、身体の少し外がわにふわりとしたみえない領域がうまれ、ヴェールのように包まれるような感覚がありました。

もちろん、人はひとりで生きていけるものでもありません。社会的な時間も必要ですが、気がつくとなんだかもみくちゃになっていたりもします。なので、日常のなかでも、寂しさをおそれずに、このような孤感覚を修復する時間も必要なのだなあと改めて思いました。また、それは、人とのつながりをつくること以上に実空間にしかできないことだと気づかされました。孤感覚を守ったり、人と人を間合いでつなげたり、自然の気配を感じたり、建築物はその働きをそっと助けるくらいの存在になることができたらいいのにと思います。まだうまく言葉になりませんが、それぞれの感覚が、うまくまじりあって溶け合うようなとりとめのない柔らかな空間について、考えてみたいと、この期間を通して考えるようになりました。(宮晶子)


テーマ:コロナ禍での生活のきづき

2コメント

  • 1000 / 1000

  • 藤江創

    2021.04.04 23:33

    孤独感と書くとネガティブだけど、孤感覚と書くとポジティブな感じがして良いですね♡
  • 栗原正明

    2021.04.01 11:55

    弧と孤の字を両方使われているようですが、どちらも孤と思って読めば良いのでしょうか?

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