住まいに「楽しさ」をプラス / 中村 高淑(なかむら たかよし)
住まいに「楽しさ」をプラス / 中村 高淑(なかむら たかよし)
〜コロナ禍での生活の気付き
▲聖蹟桜ヶ丘の家(設計:中村高淑) Photo:Gen Inoue
〜趣味と仕事と家事を楽しむ、プライバシーにも配慮した同居型2世帯住宅
コロナ禍により働き方や学校の授業の方法が変わり、思いがけず人々が長い時間を家で過ごすこととなり、ストレスなく暮らすことができるだけの住まいの質が見直されています。
家には身を守るシェルターとしての機能が優先されます。かといって外部から完全に遮断された箱の中では生きていけません。生命や健康を維持するための空気や光の導入が必要と不可欠であり、更に人やものが出入りに必要な大きさの開口部を設けることになります。こうして「安全」と「快適さ」のバランスに配慮する必要性が生じます。これが建築行為の根源であり、住まいの設計のスタートになります。
次に、ひとつの空間で全ての生活行為を済ませることは合理的な反面、音やにおい、家族間のプラバシーなど様ざまな問題が生じますので、空間をわける間取りが必要が生じます。
間取りを考える際には気候風土といった地域の特性や環境を踏まえた快適性を備え、その時代に応じた材料や生産技術、設備機器、習慣、経済性、使い勝手や好みなどの価値観、家族構成や将来の変化予測、などなど、大小の多種多様な要素が加わり、ライフスタイルが複雑化した現代社会では間取りや住まいの設計がとたんに難しくなり重要になってきました。
クーラーも車もカラーテレビもなかった時代(これ、ほんの数十年前の話しですよ!)から、生活をとりまく住まいやまちのありかたや人々の暮らし、働き方や価値観が大きく変わり、物質的に豊かな暮らしを実現した現代において、その便利さを享受する一方で家にいることでストレスが発生する…。その原因は何でしょうか? ひとつひとつ客観的に突き止め取り除き「快適」にすること、確かにそれも大事でしょう。しかし、いやむしろ「快適さ」や便利さばかりに目を向けた結果、我々は人生の「楽しさ」をどこかに忘れてはいないでしょうか?
設備的に高度に発達した現代、家にいる時間をいかに充実して「楽しく」過ごせるかが人生のなかでも非常に重要なテーマといえるのではないでしょうか?
我々建築家は、居心地のよい住まいは当たり前で、そこに暮らすこと自体が「楽しい」家をつくり、みなさまに快適で気持ちの良い豊かな空間、日々の暮らしを満喫していただきたいと考えています。
「安全」と「快適さ」は当たり前、それだけでは豊かな暮らしと言えません。楽しい人生は楽しい住まいと物、そして人に囲まれていることだと思うのです。家族や自身にとって「楽しい」住まいであること。住まいにそれぞれの「楽しい」何かをプラスしてましょう。
例えば、趣味の空間、車にバイク、音楽に映画、読書、ゲーム、陶芸に裁縫、絵画に彫刻、ファッションやアクセサリー、DIYやガーデニング、スポーツやトレーニング、庭やデッキでテントやBBQ、アウトドアを室内に取り入れてもいいですね。趣味がない人も、料理、バスタイム、掃除洗濯、それに子育て、家事が楽しい家でもいいでしょう。テレワークに向けて書斎やワークデスク、ファミリーライブラリーなどなど、わくわくする何かを加えましょう。それが生活に潤いをもたらします。
忙しい人こそ家は重要です。ただ寝るためだけに帰る家、住めればなんでもいい、とにかく安い家、家のことを考えるなんてめんどさい…、そんな家に住んでいる人の人生が豊なはずがありません。
ぜひ住まいに何かひとつでも「楽しい」をプラスして、住まいと人生と仕事のバランスを見直しされてみてはいかがでしょうか。
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2021.04.04 23:35